口という関門
これまで、皮膚を、腸を訪ねてきた。最後に訪ねるのは、口である。 口は、体のなかでも変わった場所だ。外界に開いた入口でありながら、同時に、消化管という長い管の始まりでもある。硬い面(歯)と軟らかい面(粘膜や舌)が同居する、体で唯一の場所でもある。歯の表面には、菌が自ら築くバイオフィルム(biofilm、菌がつくる膜状の集団)ー歯垢ーが張りつく。唾液に絶えず洗われながら、そこには多様で安定した生態系が保たれている。 この口の生態系が崩れるとき、何が起きるのか。そして、その崩れは、口のなかにとどまるのか。 手がかりは、歯周病(periodontitis)にある。成人の多くがかかる、ありふれた慢性の炎症性疾患だ。歯を支える組織が、じわじわと壊れていく。 長く、これは「悪い菌が増えて起こる病」と考えられてきた。だが、近年の見方は違う。 鍵をにぎるのは、菌の量ではなく、菌のふるまい方だ。Porphyromonas gingivalisという菌がいる。歯周病の患部にいるが、その数はごくわずかだ。にもかかわらず、